このページでは2014年4月、埼玉県皆野市と秩父市にまたがる美の山公園へ桜を見に行ったときのことを書いています。ここは山の山頂が公園として整備されていて、この公園の名前が美の山公園、山の名前が蓑山で、標高586.9mの独立峰です。東京都八王子市の高尾山が標高599.0mなので、それよりちょっとだけ低いですがほぼ同じ高さです。
 美の山公園は関東の吉野山と呼ばれるほど有名な桜の名所で、「埼玉県に桜の名所をつくろう」という発想から、10年の年月をかけて約1万本の桜を植栽し、昭和54年4月に開園しまた。現在も約100種、約8千本の桜があり、山を覆いつくしています。
 桜以外の花も有名で、アジサイは約7500㎡と広大な敷地に約3200株が咲き誇り、見ごろは6月下旬から7月中旬。ツツジは5種類以上の山ツツジが、約3500本、5月上旬から下旬にかけて咲き乱れる。まさに美の山です。

 今回もいつものように電車を使って行きました。山に登るために近い駅は3駅あって、東京都に近い順に和銅黒谷、皆野、親鼻で、どこで降りてもそれぞれのコースで山に登って美の山公園に行くことができます。今回は親鼻駅で降りて山を登るコースを選びました。
 ちなみにこの美の山公園は山頂付近まで車道が整備されていて、公園内には駐車場もあるため車で行くこともできます。ただ気をつけたほうがいいのは、当たり前ですが駐車場に停められる台数には限りがあるということです。車で山の頂上まで行ってみて、満車だったらどうするのでしょうか?以前に東京都青梅市にある御嶽山に登りに行った時の話ですが、その日は土曜日だったせいか、ケーブルカーの滝本駅手前の駐車場はいっぱいで、それを待つ車の長い列ができているのを見たことがあります。美の山公園でも土日祝日やゴールデンウィークなどは注意が必要でしょう。

 まずJR池袋駅まで行って、そこから今では懐かしい西武鉄道の特急レッドアロー号に乗って行きました。特急はゆったり座れるので快適です。車窓から見える景色は、最初はずっと市街地ですが、高麗駅のあたりから私の好きな山が見えるようになってきて、さらに桜が咲いている様子も数多く見ることができました。西武秩父駅に近づいていくにつれて山深い景色になり、車窓から見える山や桜を楽しんでいるうちに到着です。

 西武秩父駅に到着。改札を出て秩父鉄道に乗り換えるために、すぐ近くにある御花畑駅へ向かいます。事前に調べたところ次の電車が到着するまで10分程度しかないので、急ぎ足で歩きました。このとき始めて秩父鉄道を利用したのですが、当時はスイカ、パスモ等の交通系ICカードは全線で対応していませんでした。
 御花畑駅に着いたら小さな駅舎の中は人でいっぱいになっていて、混雑の先はどんな状況になっているのか見えないからよくわからない。どうやらみんな切符を買うために並んでいるようで、 私もその列のうしろに並びました。駅員さんが声を出して案内をしているのですが、電車はもうじき来るという。ちょっと焦ってしまいます。 切符は券売機1台と窓口の手売り1ヵ所で売っていて、 手売りのほうが速かったりして、そちらで切符を買いました。切符はちょっと厚めで、簡単に手で折り曲げられそうにない。それを改札で駅員さんにハサミで切ってもらい、ホームへ入りました。
 これが平日の10時頃の光景でした。土日・祝日、ゴールデンウィークなど、もっと多くの人が来てしまったらどうなるのだろうかと思いました。

 以上が2014年春の様子でした。しかし現在では交通系ICカードが使えるようになっています。
 秩父鉄道公式ホームページによれば、2022年3月12日から交通系ICカードが使えるようになったということです。駅によって自動改札機がある駅と、簡易改札機で対応する駅があるようです。中央線で奥多摩のほうに行ったときは、簡易改札機しかありませんでしたが、あんな感じなのでしょう。手売りの方たちの手さばきも、改札で切符を切ってもらう風景も、もう見られないんですね。
 対応する交通系ICカードやサービスの細かいことなどは、公式ホームページで確認してください。

 ホームに入ると電車はすぐに到着しました。というよりも、切符を買うために並んだので、ギリギリ間に合ったという感じです。2022年春から交通系ICカードが使えるようになったのは本当によかったと思います。車両は2両編成でしたが席には余裕があって、ゆっくり座って行けました。親鼻駅までは10分~15分くらい。途中大野原という駅で降りる人が多かったのですが、そこには何があったのでしょうか。
 親鼻駅で降りたのは私を入れて3人。駅員さんに切符を渡して改札を出ると、都会にはない自然のにおいが少しして、山に着いたという実感がわいてきました。
 早速蓑山のほうに向かって歩き出します。線路を渡ると、もう目の前は車道沿いにたくさんの桜が咲いていました。麓まで桜でいっぱいです。
 その車道で横断歩道を渡ったところに案内板が立てられていましたが、親鼻駅のほうから見ると裏側しか見えず、車道を渡ってみないと表の文字が読めないので、その存在には気づきにくかったです。でも所々にこうした案内板、道しるべが設置されているので、初めて来た人でも迷いにくいようになっています。
 麓には万福寺というお寺がありました。その万福寺の入口付近にもきれいな花が咲いていて、桜の1種なのか、名前まではよくわかりませんでした。その花の下にトイレが設置されているので借りました。美の山公園内にはちゃんと水洗のトイレが整備されていますが、そこまで途中にはトイレが無いので、ここで済ませておくといいでしょう。

 ここから先はいよいよ山に登ります。 コースは仙元山コースと関東ふれあいのみちの二つに分かれていましたが、今回は関東ふれあいの道を選びました。どちらを選んでも途中で合流するので、好きな方を選べば大丈夫です。
 美の山公園山頂までの道のりは3キロメートルほどあります。自分のペースでゆっくりと登って行きます。途中ぬかるんでいるところありましたが、気にせず淡々と登っていると、目の前の道に桜の花びらが点々と散らばっているのが見えました。上を見上げると、木々の隙間から桜が見えます。
(もう山頂に着いたのか?)
 そんなわけないです。上まで登ってみると、登山道の途中を車道が横切っていました。地図で確認すると標高300メートルくらいの地点です。車道ぞいは桜並木になっているので、ここを車で走れば、とてもきれいな景色が見られるでしょう。ここで少し桜を眺めてから、また登山道の中へと入って行きました。
 再び登りはじめてから時々後ろを振り返ると、さっきの車道の桜が木々の間から見えます。どんどん登っていくと、だんだんと桜は見えなくなって、また普通の山登りに戻りました。
 仙元山コースとの合流地点があって、そこを過ぎたあたりで道が斜面ではなくて平面になってきました。特に休む場所もなくてひたすら登り続けたので、平面がとても楽に感じます。
 花粉症なのであまり通りたくない杉林をぬけ、ちょっと登ると道が石段のようになって続いています。このあたりから、特に人工的な道が続きます。
 この時点では美の山公園まで車で行けるということを理解していなくて、こんな大量の石をどうやって運んできたのかと不思議に思っていました。ただ、東京都の高尾山や御嶽山は山道がアスファルトで舗装されていて山頂まで車で行けるという例を知っていたので、もしかしたらそのパターンなのかとも思っていました。

 さらに進むと桜ではないかと思われる木がたくさん植えられている場所に出ました。そこにはテーブルとイスがあって、さらにその横には案内板が設置されており、地面はこのあたりからはずっと、完全に舗装されています。
 案内板に近づいて見てみると、それは美の山公園の案内図で、どうやらこのあたりからが公園になっているようです。 図を見ると、この場所には「みはらし園地」という名前がついています。たしかに見はらしは良かったです。
 そしてここでやっと案内図の中の「P」の文字があることに気が付きました。パーキング、駐車場です。
(なんだ、車で楽に登って来られるんじゃないか)
とやっと理解できました。まあそうでもしなければ山頂を公園に整備して管理することは難しいですよね。
(それで桜は?)
桜の木らしきものを見ると、ほぼ咲いていない。微妙に咲いているものなら、ない事もない程度です。
(あれ、もしかしてやっちゃったかな?)
事前にネットで調べた情報だと、七分か八分咲きくらいのはずだったのですが。見るとあたり一面咲いてない。そして誰もいない。
 咲いている木を探して歩き続けます。トイレがあって、そこを過ぎたあたりからようやく人の声が聞こえてきて、何人か人の姿を見ることができました。
 さらに歩くと、桜らしきものが一本だけよく咲いているのが見えて、これでちょっと期待が持てるようになってきました。その先にも何本かの桜らしきものが咲いていて、いくらかは咲いているものもあるのだと、ちょっと安心しました。
 このあたりはまだ山頂ではないです。上に続く長い階段があったので、それを登ると「花の森」という場所に出ましたが、花はみごとに咲いていません。親切なことに、木の種類とその説明が書かれたプレートも付いていましたが、どれも知らない名前でした。というより、正直ソメイヨシノしか知りません。桜=ソメイヨシノ、です。
 上に続いている階段を登り、登りきったところで振り返って、上から自分が来た道を眺めてみると、何本かの咲いていた桜がとてもきれいに見えました。このあたりまで来ると、標高からしてもほぼ頂上です。東の方を眺めれば隣の山を見渡すことができて、見上げればきれいな空が広がっています。市街地で空を見上げると、視界にどうしても電線が入ってしまいますが、山の上にはそれがなくて、純粋に空だけが見えます。
 咲いている桜をさがして歩き続けます。木々の隙間から東方の山がチラチラと見え隠れしています。その木が途中からなくなって、見はらしの良いところに出ました。前方を見ると、遠くに桜のようなものが何本か見えました。
(いよいよ満開の桜の登場か?)
期待を胸に近づいて行くと、思ったとおりソメイヨシノが満開です。
山の裏から登ってきて、遅く咲く品種がほとんど咲いておらず、不安になってしまったために、この満開のソメイヨシノを見た時の感動は一層深かったです。それだけではなく、美の山公園は自宅からあまり近いとは言えず、電車を乗り継いではるばるやってきて、自分の足で山を登り、そしてついに満開のソメイヨシノを見たという達成感がありました。

  • 美の山公園内に咲く桜
    美の山公園内に咲く桜
  • 入口展望台付近の桜
    入口展望台付近の桜

 満開のソメイヨシノも見事ですが、見るべきものはそれだけではありません。あまり標高は高くないけど、山頂からの眺めもすばらしい。この蓑山の山頂には展望台があって、そこから山々を見わたすことができて、秩父のシンボル的存在である武甲山や羊山公園も見ることができました。
 展望台からおりると、年配のおじさん、おばさんたちの集団に
「おにいさん、写真をとってもらえますか?」
と声をかけられ、ことわるわけにもいかず、集合写真を一枚撮りました。この集団のおばさんたちはとても楽しそうにしていたけど、おじさんのうちの何人かがとてもつまらなそうにしていました。仕方が無くみんなに付き合っているという印象でした。つまらないと思うなら、私みたいに一人で行動すればいいのに。もう学校も会社も終わったんだろうから、自分の人生を生きればいいのに。

  • 入口展望台からの眺め
    入口展望台からの眺め
  • 美の山公園の桜と武甲山(写真中央)
    美の山公園の桜と武甲山(写真中央)

 もう時間がお昼なので適当に空いているベンチに腰掛けて、となりの山の姿を眺めながら、持ってきたおにぎりを食べました。食べ終わってちょっとくつろいでいると、また写真を撮ってくださいと声をかけられました。 今度は中年くらいの夫婦で、それを引き受けて写真を二枚撮りました。
撮り終わって、奥さんのほうから
「どこから来たんですか?」
と聞かれて、一瞬考えてしまい
「東京からです」
という曖昧な答え方をしました。普段は東京都以外のよその土地に行くことなどないので、何と答えていいのかわからなったのです。
 その奥さんも昔東京の某所に住んでいたことがあるとか、和やかな雰囲気の中でちょっとした雑談をしてからその夫婦とは別れました。
 以前に東京都あきる野市の戸倉城跡に行ったときにも、ひと気の無い場所で偶然出会った人と話す機会がありました。意外にも都心から離れた、人が少ないところに行くと、人との交流や話す機会があるものです。

 時刻は13時くらい。ふと空を見ると、黒い雲が多くなってきて雨でも降りそうな感じでした。見るものは見たし、そろそろ山をおりようと下山する道をさがしはじめました。帰りは和銅黒谷駅から秩父鉄道に乗る予定で、途中にある和銅遺跡、和銅製錬所跡も見たいと思っていました。方角としては、和銅製錬所跡まで行くためには南の方へ、途中までは車道を歩くようでしたが、この時はよくわからず、「黒谷駅」の方向を示す道しるべがあったので、それが指す道を歩きはじめた。ちなみに駅名はもともと黒谷でしたが、2008年に和銅奉献から1300年を記念して和銅黒谷駅にあらためたそうです。そのために下山道の途中に何ヵ所か設置されている道しるべには、昔のまま黒谷駅と書かれていました。
 おりはじめは車道沿いに植えられた桜がよく見えてきれいでした。桜はきれいでも、空はどんよりとしていました。少しずつ車道から離れていって、地味な山の中に入っていき、時々振り返りながら、小さくなっていく桜を下から見上げました。さようなら、美の山公園。また来よう。

 人ひとりが通れるくらいの狭い山道をじみちにおりていました。山は登りよりも下りのほうがきついです。すでに登りで疲れていることもあって、意外とすべったりもして、ふんばりながら歩くので足も痛くなってきます。
 しばらく黙々と下りていると、山道から抜けて住宅が目の前に見えました。ここで事前に調べた道とは違う気がする、間違えたかもしれないと思ったのですが、今来た道をまた登っていくわけにもいかず、和銅黒谷駅までは行けるはずだと思って、そのまま歩き続けました。
 民家の間を通り抜けると車道に出ました。そこから道をくだっていけば駅には行けるだろうと思って歩いて行くと、この車道沿いにも花がいっぱいに咲いていました。 桜の一種なのか、そこまで花に詳しいわけではないから名前まではよくわかりません。とにかくきれいで、山頂の公園だけでなく、ふもとの民家のまわりまで花で埋めつくされている光景は圧巻でした。
 クネクネと曲がった車道を下りて行く。すると何やら看板が見えてきました。ここが和銅遺跡へ通じる道の入口らしく、案内板が立てられていました。ちょっと道をまちがえたかと思ったので、予定どおり和銅遺跡へ行けるようでホッとしました。

  • 蓑山のふもとに咲くきれいな花
    蓑山のふもとに咲くきれいな花